物流拠点の集約・分散時における在庫変動について

物流拠点の集約・分散は、物流効率化における大きなテーマの一つです。

拠点を集約・分散する時の費用比較の際、倉庫料算出における在庫量の変化は考慮されていないものです。今回は、拠点集約・分散時の在庫量がどれくらい変動するのかを理論的に明らかにしたJohn Sussams氏の“平方根の法則”を紹介します。

回転在庫、安全在庫について

ここでは、在庫変動について考えていく上で、知っておかなければならない回転在庫、安全在庫について説明します。

  • 在庫とは
    在庫とは、回転在庫と安全在庫を加えたものです。
    在庫量 =  回転在庫量 + 安全在庫量
  • 回転在庫とは
    適切な在庫を設定しようとする時、「需要量の変動を見込んで平均的な需要量に見合う在庫」の事を回転在庫といいます。
    平均回転在庫量 =  発注量 ÷ 2
  • 安全在庫とは
    在庫を持つ時には、回転在庫に加えて「品切れを起こさない為の在庫」を持つ必要があります。この在庫を安全在庫といい、計算式で表すと次の様になります。
    安全在庫量 =  安全係数 × √T × 標準偏差
    (発注点法の場合) T = 調達期間
    (定期発注法の場合)T = 発注サイクル+調達期間
    調達期間:在庫補充の為に、商品を発注してからその拠点に届き、いつでも出荷対応できる状態に品揃え完了する迄の期間。
    発注サイクル:発注日と次の発注日との間隔。

拠点集約・分散時の在庫量、物流費の変化

物流ネットワークにおいて、一般的に拠点数が多くなれば在庫量や保管コストは増加し、配送コストは減少します。逆に拠点が少なくなれば、在庫量や保管コストは減少し、配送コストは増加します。ネットワークを構築する場合、定性的には得意先サービスレベルの維持・改善を考慮しますが、費用面では、この保管、及び配送コストをトータルで見た中での選択が必要です。

▲ここからは、拠点を集約・分散させた時、保管コストに影響を与える在庫量がどれくらい変動するのか具体的に見ていくため、まず安全在庫量の変動について考え、次にそれを基に総在庫量の変動についてみていきたいと思います。

拠点数変化に伴う安全在庫量の求め方

ここでは、John Sussams氏が、在庫プログラムによって生じる安全在庫レベルでの変化を予測するのに考えだした、“平方根の法則”を紹介します。

平方根の法則

在庫についての平方根の法則とは、「任意のレベルのサービスを確保するのに必要な安全在庫量は、場所(拠点)の数の平方根に比例して変化する。」ということであり、次の式で表されます。

< 拠点分散時(1拠点→n拠点) >
n拠点での安全在庫量 = √n × 1拠点での安全在庫量

この考え方は拠点を集約させる時もあてはまり、次の式で表されます。

< 拠点集約時(n拠点→1拠点) >
1拠点での安全在庫量 = 1/√n × n拠点での安全在量

これまで7拠点の倉庫に保管していたA商品を、1拠点に集約した場合の安全在庫量は次のようになります。

1拠点の安全在庫量=n拠点の安全在庫量/√n=306/√7=116(個)

よって、A商品の安全在庫量は116個となり、総在庫量は200個(=回転在庫+安全在庫)となります。

拠点別需要比率を加味した平方根の法則

前記に述べた平方根の法則は、基本的に拠点別の需要比率が均等であるという前提のものでした。つまり、1拠点から2拠点へ分割される際の需要比率が50%と50%だったわけです。平方根の法則は、修正を加えることによって、以下のように需要比率が不均等な場合も適用することができます。

拠点別の需要比率が“不均等”な場合の安全在庫量の求め方は次のようになります。

< 拠点分散時(1拠点→n拠点) >
n拠点での安全在庫量
=√拠点Aでの需要比率+√拠点Bでの需要比率+…)×1拠点での安全在庫量

< 拠点分散時(n拠点→1拠点) >
n拠点での安全在庫量
=1/√拠点Aでの需要比率+√拠点Bでの需要比率+…)×n拠点での安全在庫量

下表は、上の式から、安全在庫量の変動指数(増減比率)を一覧表にしたものです。

表「需要比率別安全在庫量変動指数表」

上の表の見方としては、分散(または集約)する拠点別需要比率に該当する安全在庫量変動指数を加算すれば安全在庫量がどの程度増減するか判断できます。

拠点変化に伴う在庫量変動(在庫量変動指数)

在庫量変動指数(=増減比率)の求め方

平方根の法則はあくまで安全在庫量の変動を算出するための法則であるため、在庫量がどのように変動するかまでは一目で算出することは困難でした。そこで、ここでは平方根の法則を基本に在庫量の変動について考えていきます。(一般的には、拠点数の変化に伴い発注回数も変化しますが、ここでは一定という条件のもとでみていきます。)

< 拠点分散時(1拠点→n拠点) >
在庫変動指数
=√拠点Aでの需要比率+√拠点Bでの需要比率+…)×安全在庫比率+回転在庫比率

< 拠点分散時(n拠点→1拠点) >
在庫変動指数
=1/√拠点Aでの需要比率+√拠点Bでの需要比率+…)×安全在比率+回転在庫比率

【注】安全在庫比率:在庫量に占める安全在庫量の比率
回転在庫比率:在庫量に占める回転在庫量の比率(=1-安全在庫比率)

在庫量変動指数一覧表

これまで見てきたように、在庫量は拠点別需要比率と安全在庫比率によって変動します。

《分散の場合》

下表は拠点が1拠点→3拠点まで分散した場合の在庫量変動指数をまとめています。

●在庫変動指数(1拠点→2拠点)


1拠点→2拠点の時、在庫量は最大1.414倍まで増加する。

●在庫量変動指数(1拠点→3拠点)


1拠点→3拠点の時、在庫量は最大1.732倍まで増加する。

上表から、在庫量変動指数が最も高くなるのは、分散後の拠点別需要比率がより均等でなおかつ安全在庫比率が高い時であることがわかります。

《集約の場合》

下表は、拠点が2,3拠点→1拠点に集約した場合の在庫量変動指数をまとめています。

●在庫量変動指数(2拠点→1拠点)


2拠点→1拠点の時、在庫量は最少0.707倍まで減少する。

●在庫変動指数(3拠点→1拠点)


3拠点→1拠点の時、在庫量は最少0.577倍まで減少する。

上表から、在庫量変動指数が最も低くなるのは、集約前の拠点別需要比率がより均等でなおかつ安全在庫比率が高い時であることがわかります。

今回は、発注回数が一定(=回転在庫が一定)という条件の元で、拠点数変化に伴う在庫量の変動について見てきましが、 発注回数の変化も回転在庫に影響する為、総在庫量は変化します。

現実は理論どおりとならない場合があるかと思われますが、拠点集約・分散検討時の知識として覚えておく事も大切と思います。

(担当:藤原)

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