国際海運の地政学リスクを考える:強まる法規制とその対策

今後、海上輸送のリスクは高まる

先日、北朝鮮による衛星発射実験が行われ日本にも被害が及ぶ懸念から、様々な動きがありました。結果的に実験は失敗し日本への直接的な被害はなかったようで、まずは一安心です。しかし国家間の緊張は高まり、より複雑かつ様々な分野で影響が出ることは確実でしょう。

そこで船舶への影響、特に外国貿易船について考えてみました。

今回の一連の騒動に限れば、落下地点付近への航行警戒、それに反応した諸外国の港での警戒強化、また日本においても外国人、外国船への監視は一層厳しいものになるでしょう。振り返れば、冷戦からテロ国家へ危機対象が変換したこの10数年、様々な事件から様々な規制が作られました。

具体的にはアメリカでの同時多発テロを契機とした改正SOLAS条約(国際港湾施設での保安装置の設置義務(フェンスなど)、船からの入港前24時間以前での船舶保安情報提出義務) ※1 http://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/solas/index2.html
北朝鮮との緊張から入港船制限 ※2
(北朝鮮船舶の入港禁止)
尖閣諸島沖での中国船との衝突から、不審船への退去命令の法改正 ※3
(不審船に対して、立ち入り検査を省略して退去命令が出せる) http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/kouhou/h24/k20120228/k120228-1.pdf
などがあります。

これらの法改正は安全対策という目的でなされていますが、運送事業者にとっては費用負担増となる可能性があります。入港の可否や審査で時間を要して入港が遅れることもしばしばあるようです。また、国家間以外では航路安全上の問題があります。日本、特に瀬戸内海は航行上難所と言われており、接触事故は毎年起きています。

対策は

これらの対策として次のような対策が実施されています。

優秀な船長、船員の登用

メリット:優秀な人材を登用することで、ミスや事故を未然に防ぎます。
デメリット:コスト増と将来的な人材不足。

荷役以外の作業の省略

メリット:乗下船や訪船、補油などを少なく抑えることでリスクを軽減します。
デメリット:予定が立てにくく、逆に船の動きを止める危険性もあります。

各船での安全対策

メリット:安全ミーティングの定期実施、法令順守の徹底等で安全意識を高めます。
デメリット:時間がかかる事、各船に意識の差が違ってくること

などがあります。

これから法規制に関して10数年は規制緩和が行われることはないでしょう。特に領土問題を抱える他国との規制に関しては厳しくなっていく一方だと思われます。今後は荷主、船会社、船、代理店と船のリスクについて考慮する機会も増えるでしょう。

リスクは知っていれば対策、軽減できます。一番のリスクは知らない事です。複雑な法令などたくさんありますが、十分理解して相互間の理解を深めることがリスク軽減に効果的な手段だと思います。

(文責:小﨑)

【参照】
※1 国土交通省サイト 国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律とは?
※2 電子政府の総合窓口e-Gov (イーガブ) 特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法
※3 海上保安庁ホームページ https://www.kaiho.mlit.go.jp/
広報資料 平成24年2月発表分 海上保安庁法及び領海等における外国船舶の航行に関する法律の一部を改正する法律案について (平成24年2月28日)

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(ロジ・ソリューション(株) メールマガジン/ばんばん通信第170号 2012年4月25日)