トラック運送業界への中型免許施行後の影響を考える

平成19年6月の道路交通法の改正

先日、運転免許センターへ運転免許証の更新に行ってきました。毎回、人相の悪く且つ確実に前回より老けた顔になる写真が嫌になります。今回の更新で免許証もとうとうクレジットカー ドサイズになったのが新しい発見でした。

運転免許を取得して20年ちょっと、免許証の記載項目やサイズも時代が変わり変化しましたが、種類も自然と普通→中型となりました。今回はその中型免許施行の物流への影響を考えました。

平成19年6月に施行された道路交通法改正により、普通・大型自動車に加えて、車輌総重量5トン以上11トン未満等の自動車を「中型自動車」として定義し、「中型免許」、「中型第二種免許」及び「中型仮免許」が新設されました。既存の普通免許取得者は中型限定(※1)の中型免許となりました。

改正された理由は、

・車輌別交通事故を分析すると車輌総重量5トン以上の車輌による死亡事故が顕著に高い
・年々車輌の大型化が進み、免許制度が現状に伴っていない

という点から普通免許取得者の運転不慣れによる大型車輌事故の抑制効果を狙ってのことでした。

改正前
免許種類普通免許大型免許(特に大型車輌)
受験資格18歳以上20歳以上(21歳以上)
経験2年以上(3年以上)
車輌総重量8トン未満8トン以上(11トン以上)
最大積載量5トン未満5トン以上(6.5トン以上)
乗車定員10人以下11人以上(30人以上)
改正後
免許種類普通免許中型免許大型免許
受験資格18歳以上20歳以上
経験2年以上
21歳以上
経験3年以上
車輌総重量5トン未満5トン以上11トン未満11トン以上
最大積載量3トン未満3トン以上6.5トン未満6.5トン以上
乗車定員10人以下11人以上29人以下30人以上

改正前では高校を卒業し、普通免許取得すれば4トン車の運転が可能でしたが、現在は2年経たないとトラック運送主力の車輌総重量5トン~8トンの車には乗れません。

前々回の記事でも書かれていますが、4トン車は車輌重量が8トンで普通免許では乗れません。

2トン車でも荷台がアルミパンになれば5トンを超え、冷凍機やパワーゲート(※2)など設備付きも5トンを超えるため普通免許では乗れません。実質2年間の運転経験と中型免許試験合格が無ければ、ドライバーにはなれなくなりました。また大型免許の取得も普通免許取得後3年間以上経たないと取得できなくなりました。

制度見直しについて、神奈川県トラック協会の中型免許制度による影響のアンケート調査回答 (453社回答/協会会員2,209社)によると、トラック運送業界の事業者は、「運転の未熟なドライバーによる事故を回避する制度見直しは理解はできる。」という意見もありますが、「現状のままでは、中型免許(大型免許)の取得にまた多く費用がかかり、わざわざ免許を取得しても仕事への魅力が無い(※3)のでは。」「制度の見直しが必要」という意見が42.2%もありました。

様々な工夫で労働力を確保

現在、トラック運送業界では様々な工夫で労働力の確保を行っています。

中型、大型免許取得への費用助成

車輌の大型化に伴い、ドライバーへ中型、大型免許取得へ費用助成する動きが増えているようです。会社が教習所と提携し短期間での取得カリキュラムを開発したり、小型移動式クレーンとユニック玉掛けの免許という特殊免許の取得も会社が後押しして研修を行っている例もあります。ただ、こうした中型、大型免許取得のための費用助成が、事業運営を圧迫しているという声もあります。

ドライバー未経験者の採用

ドライバー経験者優先からドライバー未経験の改正前の普通免許保持者の積極採用へ枠を拡大し、試用期間の間に中型限定解除の免許取得への教育を行っているケースもあるようです。

情報端末等の配送支援機器の導入

車輌動態把握と、配送情報提供、運転記録等の情報をオペレーションセンターで把握し、ドライバーに細かな配送支援を行っているケースも増えています。ドライバー未経験者でも、GPSを利用した情報端末の車載により、目的地までの配送ルート情報の提供や、次の配送先条件の確認を行ったり、配送中の追加・変更等の情報を得ることができます。また運転中の走行速度やブレーキ回数も記録され、運転中の操作を指導できるようになっています。

このようにドライバー職への障害となるデメリットを育成面、配送支援面からバックアップし、広く門戸を開放することで労働力確保の努力が行われています。

ただこうした労働力確保の努力も普通免許の既存取得者の雇用拡大に偏っていて、全体的なドライバーの高齢化は避けられず、将来若年層の深刻なドライバー不足が発生すると問題視されています。

今年2月17日の読売新聞にて、「埼玉県トラック協会が警察庁などに対し、道交法改正の改善を求める要望害提出を計画している。」という話題が取り上げられました。

埼玉県では平成17年時点で県下に5,646人いた旧大型免許の新規取得者に対し、平成22年時点の新大型と中型の新規取得者はそれぞれ2,183人、1,258人。合せても3,441人4割減となっています。退職等で年間4,000人のドライバーが減っているのに対し人員体制維持が出来ないということが懸念するひとつでした。

一方警察庁は、「中・大型の免許取得には、免許取得後2~3年の経験が必要。始まったばかりの制度のため、新規取得者が少ないのは当然で、普通免許でさえ減少傾向にあり、中・大型も同様に減ったのでないか。」と事態を静観しているようです。トラック協会は労働力確保への困難な現状に対しての懸念、警察庁は事故発生削減に視点が向いているため、両者の意見が合わないのは当然かもしれません。

このように中型免許施行は確実にトラック運送業の労働力確保の動きに影響を及ぼしているようです。国内貨物輸送量92%はトラック輸送が担っている日本では、供給側の状況に反した需要側のより高いサービスレベルのニーズと、規制を行った影響は、いずれ運賃に反映されます。物流において効率化(低コスト化)を求められる中、トラック運送業界は改正法見直しへの働きかけと共に、新しい発想のトラック運送(他社との共同運行の提案、少量配送への普通免許での配送可能な大型ライトパンの導入等)を提案していかなければ、顧客側、物流側ともにWinWinの形はなりえないと改めて考えさせられました。

(文責:岩本)

※1:道路交通法改正以前の普通免許取得者は、「中型車は中型車(8t)に限る」という限定付きでの普通→中型への更新となった。
※2:パワーゲート:貨物自動車における荷役省力化装置のひとつで、車輌後部に装着して使用するエレベーター(昇降機)の一種。テールゲート昇降装置、テールゲートリフターとも呼ばれる。
※3:免許取得に普通→中型・中型→大型共、平均20万円前後費やすのに対し、10年前(平成13年)の大型トラック運転手の平均年収467万円→平成22年403万円と14%DOWNしている。
(厚生労働省抽出調査より)

<参考文献>
神奈川県トラック協会
「神奈川県下のトラック運送事業における中型運転免許制度の影響に関する調査結果」
全日本交通安全協会「交通の規則-安全運転ハンドブック-」平成23年4月改訂版
2011年2月17 読売新聞記事
「埼玉県トラック協会が警察庁などに対し、道交法改正の改善を求める要望書提出を計画」
物流Weekly 2010年2月8日ニュース

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